コラム・創業100年のメーカー 創業者一族による経営権奪取劇の裏(1)

「議長交代!」

 

議場に突然響いた一言。その瞬間、経営陣は微動だにせず、何の反応も見せなかった。しわぶき一つ聞こえない。まるでその言葉の意味がわからないかのようだ。

 

声を発したその男性は続けてこう言った。

「議長は私がなります。そして、議長補助者として弁護士を入場させます。」

 

「何が起きたのか??」予想もしなかった展開に、彼ら経営陣は思考停止状態に陥ったようだ。

 

30年間経営に関与してこなかった、いや、関与させてもらえなかったというべきか。今まで蚊帳の外にいた創業家。その創業家の「想定外」の反撃が始まった瞬間だった。同族会社における少数株主が一体どのようにして経営権を奪取したのか?その裏にどのような物語があったのか、みなさんにお伝えしよう。

 

■ なぜ50%を割った?創業家の株保有

化学工業用プラントの設計施工請負、保守を業とする会社Aは、創業100年を誇る。非上場の同族会社で、従業員数は約160名。競合他社が少なく、安定的に利益を上げて来た。二代目社長の時、番頭だった男(前社長)は大株主でも何でもなく、保有株数はわずか1%強。そんな男が約30年間も会社を牛耳ってきた。何故、そんなことになったのか。まず、この会社の総会前の株主構成を見てみよう。

 

株主構成(約150名)

創業者一族                     41   %

創業者一族側親族            3    %

取引先と従業員等の一般株主  8.5  %

社長及び社長親族              5.1 %

現役員                            1.72 %

現従業員                         1.66 %

元従業員及びその周辺                 12.9   %

取引先                            6.1 %

その他                             26 %

 

これを見ればお分かりだろう。なんと創業者一族は50%を割り込んでいる。一方で前社長とその親族はわずか5.1%に過ぎない。こうした状態が30年も続いてきたということは、創業者一族もそれを甘受してきたということ。それならばなぜ、この時期になっていまさら経営権を取り戻そうとしたのか?そこにはある、大きな理由があった。

 

■ 創業家一族が直面した問題

 

創業家に関わらず、相続の問題は避けては通れない。誰でも頭を痛めるものだが、この同族会社において、創業者の家系で長男に相続が発生した場合、長男の相続人が相続税の負担に耐えられないことがわかったのだ。下の図を見てもらいたい。既に長男の娘は4.5%の議決権を保有していた。長男に相続が発生した場合、取得する株式の評価は類似業種比準法となる。これは、非上場株式の株価を計算する方法のひとつであり、業種ごとに標準的な会社を見立てて、その会社の価値をもとに非上場株式の株価を計算するものだ。

 

この状況下で、一次相続、二次相続を合わせるとなんと約1億4000万円以上の相続税がかかることがわかったのだ。これには創業家一族も仰天した。自分たちが興した会社である。確かにその経営を他人に任せてきたとはいえ、これだけの高額の税を払ういわれもないし、払いたくもない。そう思うのが当然であろう。

 

長男   ―       妻

10.8%          2.8%

娘    ―    婿

4.5%

 

当然、創業家も動いた。経営陣に相続に関して相談に行ったのだ。いや、相談というよりはお願いだ。

 

「株を買い取ってもらえないだろうか?」

 

しかし・・・経営陣はその相談を一蹴した。自分たちには関係ない、そちらで勝手に処理すれば?ということだった。なにしろ30年も経営に関わってこなかった創業家だ。そう経営陣が思っても無理からぬところもあった。

 

実は、創業家は、長男の株を第三者に売却することも考えた。しかし、非上場、同族企業の株式を買う人がいるだろうか?そもそも非上場会社の株は市場で売買できないのだから買い手も付かないのが道理。実際、買い手は誰も見つからなかった。ここにきて創業家は窮した。

 

億を超す相続税を払うしかないのか?しかしそれでは、あまりに理不尽だ。どうしたらいい?まず地元の弁護士に相談した。すると、彼らの答えはあまりにそっけなかった。

 

「どうしようもありませんね。非上場会社の株は売れないんですよ。相続税を払うしかありません。」

 

木で鼻をくくったような返事に愕然とする創業家。

 

「そんなばかな・・・。」

 

わらをもつかむ思いで創業家は人を介して、私の所属する法律事務所に行きついた。電話の先で話す創業家の人は「ホームページを見ました。お願いです。是非、相談に乗って頂きたい。」声でその切実さが分かった。私は早速彼に会うことにした。

 

その2に続く)