コラム・創業100年のメーカー 創業者一族による経営権奪取劇の裏(2)

当事務所が創業家に提示した解決策は極めてシンプル、以下の三点を伝えた。

 

■ 提示された解決策

 

1 まず議決権の過半数を取り経営権を握りましょう。

2 次に経営権を握れば役員報酬額を決められますから、娘の相続税の原資は、長男が受領する役員報酬を貯めてまかないましょう。(一次相続および二次相続に係る相続税の原資としては約3億円で足りる勘定だった。)

3 2で足りないなら、会社のお金で自己株を買いましょう。(相続税の原資に充てるため。)

 

さあ、ここからのやり取りが大変だった。何しろ、創業家の男性はぽかんとしてわたしの顔を見ているだけ。話を聞き終わってしばらくして彼はようやく口を開いた。

 

「先生、そんなこと言ったって過半数なんて取れるわけないでしょう。」

 

そこで私は「ここに150人の株主リストがありますよね、一人一人当たれば過半数取れるんじゃないですか?」と返した。しかし彼は「無理」の一点張りだ。私は続けた。

 

「やらないと相続税払えませんよね?お子さん2人いて、1人1億5千万円、2人で3億円払うことになりますよ?他の一族のみなさんもそうですよね?3億払えないんだったら、頑張らないとダメでしょう。」とにかく、支配権をとって役員報酬をもらうしかない、と説明した。

 

でも彼は「先生、無理です。」としか言わない。とにかく根気強く説明した。150人の株主の中には、取引先とか、元従業員とか、役員とかいるでしょう?どっち寄りかわからない日和見の人がいるはずだからその人に対して、働きかける必要があるんじゃないですか?今、創業家の持ち分は44%なんだから7%持てば51%ですよね?10人くらい味方につければ大丈夫ですよ、等々。

それでも創業家は、「だれが説得するんですか、そんなことできません。」の一点張りだ。そうしたやり取りが実に10か月続いた。

 

彼が最初に相談に来たのは定時株主総会直後だった。次の定時株主総会で経営権を握るべく準備することになった。しかし、創業家の彼は決断しきれず、質問に対するやりとりが続く状況だった。こうしたやり取りが続いているうちに次の定時株主総会が近づいてきた。私はさすがに「これまで先送りしてきましたが、何も解決していません。もういい加減スタートしないと間に合いませんよ。」そう述べて決断を促した。ようやく創業家も決心し、動き出したのは総会2カ月前の10月のことだった。

 

ここからは急ピッチで作業を進めた。まず、150人の株主名簿を1人ずつ洗い出した。親族なのか、友達なのか、最後に会ったのはいつなのか、どこに住んでいるのか、などを聞き取り、委任状をもらえる可能性順に、A、B、C3ランクに分類した。AランクはいなかったのでBランクの人全員に会いに、創業家の本人1人で全国飛んでもらった。そう、委任状をもらいに、だ。

 

問題は、会った時に何を話すかということだ。私は、委任状をもらいにいく時に説明する内容について考えてもらった。大義名分が必要なのである。

 

■ キーワードは「大政奉還」

 

私が創業家の彼と考えたキーワードは「大政奉還」だ。株主を説得するポイントは以下の3つに絞った。

 

・前経営者は高齢で、しかも後継者を育てていない。

・会社は創業100年で地元に貢献してきており、今後も継続させないといけない会社である。

・社外取締役を入れるなどして透明性のあるフェアな経営が必要だ。

 

その上で、経営陣が変わればいろいろと還元しようと思っている、と言った。こうした説明が功を奏したのか、結果、なんと6.7%に当たる株主から委任状を取り付けることが出来たのだ。創業者の44%の議決権割合は、50.7%となり過半数を押さえることに成功した。

 

■ 株主総会までの戦略

 

総会当日までは経営陣にこちらの動きを察知されないように工夫した。もし創業家の動きが事前に漏れたら、当然彼らは対抗措置を取ってくると思われた。

 

結論は?

 

当方の工夫の結果、総会は延期されず、予定通り開催されることとなった。

 

その3に続く)