コラム・創業100年のメーカー 創業者一族による経営権奪取劇の裏(3)

そしてついに創業家の反撃が始まった。

 

■ 経営陣との対峙

創業家側から発せられた一言が議場に響いた。

「動議!議長交代。」

 

創業者3代目が続ける。

「議長は私がなります。議長補助者として弁護士を入場させます。」

 

議場はシーンと静まり返っている。まるで突然銀行強盗が入ってきたかのように、何が起こったかわからない状態だった。経営陣はみな金縛りにあったように固まっている。

 

入場した私はこう宣言した。「ただいま議長補助者に選任されました弁護士の〇〇です。よろしくお願いします。」

「すでに委任状は会社に提出済みであり、私どもは議決権の50パーセント以上を持ってます。」

 

経営陣から声が上がった。「それは実際に数えなくていいのか?」

 

私は続けた。「裁判例上、数えなくてよいことになっています。議長が過半数持っていると思えば、議長が可決すればよいのです。万が一過半数持っていなかったということになれば、後で裁判で争えばよいだけですから。過半数持ってるかどうかを判断することは議長の権限です。」

 

経営陣の社長、つまりそのときの議長は、席から動こうとしなかったので、その隣に3代目と私が座った。

 

総会の一号議案が事業報告で、2号議案が決算承認、3号議案が取締役選任の件、4号議案が監査役選任の件だった。第3号議案がかかった時、創業者の3代目は間髪を入れず議長交代の動議をかけ、議長を交代させたわけだ。

 

議長交代後、3号議案の審議に入ったところ、修正動議をかけた創業家側の人がこう言った。「第3号議案の取締役役員選任の件については、次の取締役に差し替えたいと思います。」

 

新議長についた3代目が続ける。

「ただいま株主の△△さんから修正動議が提出されました。修正動議の内容は△△株主が言った通りです。」

 

創業家側の人が新役員の経歴を書いた紙を配り始めた。そして一人一人の経歴を読み上げた。

 

新議長は「ただいま提出されました提出動議に関しまして、動議先行で修正動議を先に議場にはかりたいと思います。よろしいでしょうか。」

 

創業家側から声が上がる。

「異議なし!」

 

この瞬間に経営陣は創業家側に入れ替わった。

 

新議長が「ご質問のある方は挙手でお願いします。」と言った。しかし、旧経営陣はシーンとしている。

 

「ご質問の方は挙手お願いします。いませんか?」

新議長は2回繰り返した。それでも反応はない。

 

打ち切っても良かったが、無理やり審議を打ち切ったり、議案を決議したりすると、裁判で決議を取り消される可能性があるので、私は念には念を入れるため、新議長にもう一回質問を促すように言った。

 

「ご質問はありませんか?」

するとようやく地元の取引先である株主の一人が口を開いた。

 

■ 経営側の抵抗

「突然こんな乗っ取りみたいなことをやられておかしい。こんな重要な経営陣を変える提案だったら突然にしないで事前に話をすべきなのではないか。今日は決議を取らないで、また次にやったらどうなんだ。」と。

 

これに対し、新議長は「貴重なご意見ありがとうございました。」と言うにとどまった。「次に何かご質問はございますか?」

 

ここにきて出席していた株主が次々と発言をし始めた。最後の方になって元議長の社長がようやく声を上げた。

「そんなばかな。こんなことが許されると思っているのか。提案された役員には今の役員が1人も入っていないじゃないか。そんなことで経営できると思っているのか。」

 

新議長は提案者に回答を求めたところ、その人に冷静にこう答えた。

「貴重なご意見ありがとうございます。選任されたら一生懸命頑張る次第でございます。」

 

最後に総会の延会や休会の動議が出されたが、全て議長が反対し、退けた。そして約1時間くらいたったところで審議を打ち切り、決議して総会は終了した。

 

その後、創業者からなる新経営陣は、別室で取締役会を開いた。代表取締役、報酬、次回の取締役会の開催日を決めた。

 

実は私たちは別室で総会終了後、法務局に議事録を速やかに提出できるよう準備していた。幾通りもの議事録が既に手元にあった。すべて経営側の対抗策を封じるためである。経営陣が総会で交代したことを記した議事録を添付して申請書を法務局に届け出てしまえば彼らも手の打ちようがない。法務局側にも弁護士を貼り付けておく周到さだった。申請書は無事法務局に提出され、創業家一族は無事役員の座につき、大政奉還は果たされた。

 

後日談だが、旧経営陣側は弁護士に相談に行き事の顛末を話したところ、その場で「負けです。」といわれたことが私の耳にも入った。それ以降、株主総会の問題について彼らから指摘されることはなかった。

 

創業家でありながら、少数株主の身に甘んじ、株を売ることも出来ず袋小路に入り込んでいた人間が会社を取り戻した瞬間だった。

 

■ 本事案の残した教訓

このメーカーの例は私たちに幾つかの重要な教訓を残した。

 

1 創業家は株を分散させるべきではない。

 

2 創業家の方は一度議決権比率を調べるべきだ。創業家の議決権は51%を割ってはならない。出来れば、66.7%(3分の2以上)を確保しておくべきだ。

 

3 後継者(子供)が年少である場合、経営権を取得できる仕組みを作っておくべき。(民事信託等)

 

4 後継者(子供)が育っていない場合、後継者が育つまでの間番頭格に経営権を譲る傾向が強い。今回のメーカーの例のように、それが10年、20年と続くと、経営権が完全にその人間に移ってしまう。そうなってからでは遅い。

 

5 相続対策は相続税が支払えるだけの現金を相続財産中に用意しておく。

 

6 これも当たり前のようでいてやっていない人が多い。役員報酬を貯めておいて、相続税の原資とすべきである。

 

同族会社の少数株主(今回は創業者だったわけだが)にとって、相族税の負担が巨額になるケースがあることを知って頂けたと思う。同族会社の少数株は売ろうにも売れない。しかも、法律事務所に相談しても解決できるところはほとんどない。

 

私どもが手を貸したことで創業家は経営権を取り戻しただけでなく、相続にもめどをつけることが出来た。同族企業の少数株主の皆様に参考になれば幸いだ。

 

(このシリーズ了)