少数株主の抱える課題
非上場会社の少数株式についての理不尽さ
1. 配当が受けられない
非上場会社では、支配株主が会社の利益を独占するために、利益配当をしない傾向にあり、利益配当があるとしても配当額が非常に少ないのが一般的です。そのため、少数株主にとって、非上場会社の株式は何の経済的利益ももたらさない単なる「紙切れ」にすぎません。他方で、支配株主は、利益配当を行わない一方で、自らは役員となり、役員報酬という形で会社の利益の分配を受けることができます。
このように、非上場会社では、支配株主が少数株主を犠牲にして会社の利益を独占しているのです。
2. 経営への影響力がない
支配株主による会社の利益の独占を止めるためには、株主総会決議へ株主への配当を決議する必要があります。
しかしながら、議決権の少ない少数株主は、株主総会に出席しても決議に影響を与えられず、株主総会を通じて配当を得ることもできませんし、会社の利益を独占する経営陣を退任させることもできません。
また、会社から残余財産の分配を受けたいと考えても、株主総会決議が必要であるため、少数株主が自力で実現することはできません。
3. 株式は捨てられない-多額の税負担のリスク
株主という地位は、他人に譲渡しない限り、権利放棄することができません。
そのため、少数株主は、上述の通り、配当を受けることができず、経営への影響力がないだけでなく、相続した場合に多額の相続税がかかるリスクがあります。
たとえば、著名な判例として「大日本除虫菊事件」と呼ばれる事件があります。この事件は、「金鳥」の蚊取り線香で知られる大日本除虫菊株式会社(非上場会社)の4.99%の株式を保有していた株主が、相続により、更に0.49%の株式を相続した結果、1億円もの相続税を課されたというものです。
なぜこのようなことが起きたかというと、相続の結果、保有する株式の割合が5%を超えたことにより、当該株式の評価方法が変わり、税務上の評価額が1株当たり500円(総額465万円)から1株当たり1万6743円(総額約1億5500万円)となったからです。これによって、相続税の金額も256万円から1億円に大幅に上昇してしまいました。株主は、訴えを提起し、最高裁まで争いましたが、結果として敗訴に終わりました。このように、非上場会社の少数株主は、株式から利益を得られないだけでなく、多額の税負担のリスクにも晒されているのです。
4. 非上場会社の少数株式を巡る多数のトラブル
以上のような少数株主の問題は決して机上のものではなく、日本中で現実に起こっていることです。これまで、当事務所には、非上場会社の少数株式を巡る多数のトラブルのご相談が寄せられてきました。
当事務所の牛島信が執筆した小説「少数株主」は、実際に弊事務所が担当した事件を基にしており、これをご覧いただければ、少数株主がいかに理不尽な立場に置かれているかがお分かりいただけると思います。
非上場会社少数株主の置かれた状況
1. 非上場会社の一般的状況‐コーポレート・ガバナンスの不存在‐
日本の企業の99.7%は中小企業であり(2016年時点)、日本の株式会社に占める非上場会社の割合は約99.8%であるとされているとおり、日本の企業の多くは非上場の同族会社です。
ところが、ほとんどの非上場の同族会社にはコーポレート・ガバナンスがなく、経営者が公私混同して会社の費用で贅沢な生活を送ったり、株主への配当を行わずに家族を役員にして多額の役員報酬を支払ったりということがしばしば行われます。
株式会社には、社員の有限責任、税務上のメリットといった特権が認められていますが、これは、株式会社が社会の役に立っているからこそです。しかしながら、非上場の同族会社の経営者は、これらの特権を社会のためでなく自身の私利私欲のために使っているのです。このような特権の濫用がまかり通っているのは、非上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する議論がこれまでなされてこなかったからであり、その結果、非上場会社の少数株主が不公平に扱われるという状況が長年続いてきました。
2.「株を捨てたい」のに手放せない少数株主の窮状
非上場会社の少数株主は、不公平に扱われるのみならず、巨額の税負担の恐怖に晒されており、保有しているだけでリスクを常に負っています(詳細は「非上場会社の少数株式についての理不尽さ」をご覧ください。)。実際、一族で約42%の株式を保有するものの経営に関与していない株主の方から、「株を捨てたい」という痛切な悩みのご相談があったこともありました。
株を捨てるくらいなら売ればよいではないかと思われるかもしれませんが、通常、非上場会社の少数株式を売却することはできません。なぜなら、非上場会社の株式は買い手が現れないのが現実だからです。法律上は、買い手さえ見つかれば、非上場会社の株式を売却することが可能ですが、買い手がいないことをいいことに、経営陣は公私混同を続け、少数株主を虐げ続けているというのが現状です。
3. 当事務所が考える非上場会社のガバナンス論‐非上場会社の株式に流動性を‐
経営陣による公私混同を止めさせるにはどうしたらよいか。私たちは、非上場会社の株式に流動性を持たせるべき、つまり、簡単に売却できるようにすべきと考えています。そもそも、会社の株式を買うことは、会社に出資することを意味しますが、法律上、会社への出資の払戻は原則として認められず、株主は、株式を売却することによってしか投下資本を回収することができません。しかしながら、非上場会社では、株式を売却することが事実上不可能であるため、株主は一度出資をすると、配当を受けることも出資の払戻を受けることもできず、単なる紙切れを持っているも同然の状態になってしまうのです。
もし、非上場会社の株式に流動性があれば、株主が絶えず交代し、株主による経営の監視が行われる契機となります(たとえば、アクティビストが利益剰余金の配当(増配)を求めたり、社外取締役の選任を求めたりするということが考えられます。)それによって、非上場会社の経営は「正常化」していくと考えられますし、もし経営陣が「正常化」したくないのであれば、適切な金額で少数株式を買い取るべきです。
私たちは、これこそが将来の非上場会社のガバナンスのあるべき姿と考えており、そのような法制度の実現へ向けて非上場会社の少数株主の地位改善に日々取り組んでいます。